INTRODUCTION

“生きる伝説”テレンス・マリック監督最新作。
ベン・アフレックらハリウッドスターが豪華共演

1978年、『天国の日々』でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、世界中の賞賛を集めながら、その後20年にわたり沈黙を守り、98年の『シン・レッド・ライン』でベルリン国際映画祭金熊賞(最高賞)を獲得して劇的な復活を遂げた“生きる伝説”テレンス・マリック。2011年、『ツリー・オブ・ライフ』ではカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)の栄誉に輝き、今後もブラッド・ピット、ナタリー・ポートマン、クリスチャン・ベイルら出演の新作が相次ぐ、現代最高の監督による待望の最新作が『トゥ・ザ・ワンダー』だ。

40年を越えるキャリアのうち監督作はこれまで6本と寡作ながら、そのひとつひとつが芸術作品としての高い完成度を誇る巨匠のもと、ハリウッド屈指の俳優たちが贅沢な共演を果たしている。主人公ニールを演じるのは、自ら主演した監督作『アルゴ』(12)でアカデミー作品賞を受賞し、名実共に今後の映画界を担う中心的存在となったベン・アフレック。マリックとは以前から知人であり、しばしば彼に仕事の助言を求めてきたというアフレックは、敬愛する監督とのコラボレーションによって、かつてない深く静謐な演技を披露している。

ニールが恋に落ちるマリーナには、トム・クルーズと共演する『オブリビオン』(13)を始め、注目作への出演が続くオルガ・キュリレンコ。ニールが愛するもうひとりの女性、ジェーンに扮するのは『きみに読む物語』(04)、『ミッドナイト・イン・パリ』(11)のレイチェル・マクアダムス。そして、『ノーカントリー』(07)、『007 スカイフォール』(12)のハビエル・バルデムが、信仰の前に葛藤するクインターナ神父を厳かに演じている。

この幸せな時間は永遠に続くのだろうか?
“愛の移ろい”を映し出す残酷で切ない愛の物語

物語はフランス西海岸に浮かぶ小島、モンサンミシェルで幕を開ける。アメリカからやって来たニールは、そこでマリーナと出会い、互いに深く愛し合う。しかし、アメリカへ渡り、オクラホマの小さな町で生活を始めたふたりの、幸せな時間は長く続かなかった。マリーナへの情熱を失い、やがて幼なじみのジェーンに心奪われるニール。そして、彼との関係に苦悩するマリーナはクインターナ神父のもとを訪れる。愛とは何か? 永遠の愛は可能なのか? 愛は彼らの人生を変え、破壊し、そして彼らを新たな人生に向き合わせる。激しく燃えた愛が、次第に熱を失い義務感や後悔へと移ろうさまを、マリックはモンサンミシェルやオクラホマの広大な景観の中に映し出していく。真実の愛の物語ははかなく、残酷で、だからこそ切ない――。

壮大なスケールと息をのむような美しさ。
ビジュアルとサウンドが織り成す“究極の映像体験”

アカデミー撮影賞を受賞した『天国の日々』を始め、その壮大なスケールと息をのむような映像美によって人々を魅了してきたマリック作品。『ニュー・ワールド』(05)、『ツリー・オブ・ライフ』に続き、撮影監督にエマニュエル・ルベツキを起用した本作でも、フランスで“西洋の驚異=WONDER”と称されるモンサンミシェルの光や風が、あるいはオクラホマ州バートルズビルの荒涼とした自然や家並みが、スクリーンにまばゆく描き出される。ワーグナーやチャイコフスキーの楽曲を使用した音楽と共に、そこに織り成される究極の映像体験は、圧倒的な美しさで観客の心を揺さぶるだろう。

STORY

ニール(ベン・アフレック)とマリーナ(オルガ・キュリレンコ)はフランスの小島、モンサンミシェルにいた。故国であるアメリカを離れ、フランスへやって来た作家志望のニール。彼はそこでマリーナと出会い、恋に落ちる。10代で結婚し娘のタチアナをもうけたマリーナは、ほどなくして夫に捨てられ、いまや望みを失いかけていた。そんな彼女を闇から救ったのがニールだった。光の中、手をつなぎ、髪に触れ、愛し合うふたり。入り江に浮かぶ修道院を背に、潮騒を聞きながら、ニールは彼女だけを生涯愛し続けようと心に誓う。

「あなたとならどこへでも。一緒に過ごせればいいの」

2年後、彼らはアメリカへ渡り、オクラホマの小さな町バードルズビルで暮らしていた。ニールは故郷にほど近いこの町で、作家になる夢をあきらめ、環境保護の調査官として働いている。マリーナにとって、そこはとても穏やかな場所だった。愛さえあれば他に何もいらないと思った。前夫と正式な離婚手続きをしていないため、決してニールと結婚できなくても。

「私たちを包む愛とは? どこからともなく訪れる、あらゆる方向から」

ニールはタチアナを実の娘のように愛した。タチアナもまた彼によくなついた。しかし、故郷から離れたその土地で、タチアナは友だちに恵まれずいつもひとりだった。彼女はマリーナに言う。「もうフランスへ帰ろう」

カトリック教会の神父、クインターナ(ハビエル・バルデム)は救いを求める人々に布教を行っている。町の人々に溶け込み、皆から親しまれるクインターナ。マリーナもニールとの関係を相談しに、彼のもとを訪れていた。しかし、クインターナは苦悩を深めていく。神はどこにいるのか? なぜ神は自分の前に姿を現さないのか?

「すべての人間は神に背いている」

彼はかつて持っていた信仰への情熱を失いかけていた。

ニールの心もすっかり冷えかかっていた。マリーナとの間には諍いが絶えず、タチアナには「パパ気取りはやめて」と非難される日々。滞在ビザが切れるため、マリーナはタチアナを連れてフランスへ戻ってしまう。

「永遠に続くと思った時間は存在しなかった」

マリーナがいなくなった後、ニールは幼なじみのジェーン(レイチェル・マクアダムス)と関係を深めていく。傷を負ったふたりは瞬く間に互いを強く求め合った。だがその頃、マリーナはタチアナに家出され、フランスでの生活に耐え切れずにいた。責任を感じたニールは、マリーナをアメリカへ呼び戻し、結婚のための手続きを進める。ジェーンはニールのもとを立ち去っていった。

 遂に結婚を果たしたニールとマリーナ。しかし、マリーナの強く激しい愛を、ニールは受け止めることができずにいた。

「なぜ愛は憎しみに変わる? なぜ優しい心は冷淡に?」

ニールは、信仰の前で葛藤するクインターナと同じように、愛とは何かを深く考えていた。愛は感情か? 愛は義務か? それとも命令なのか? ニールとマリーナはやがてそれぞれの選択を下すことになる。

CAST PROFILES

ベン・アフレック/ニール
BEN AFFLECK

1972年、アメリカ カリフォルニア州バークレー生まれ。両親の離婚後、マサチューセッツ州にて弟で俳優のケイシー・アフレックと共に育つ。そこで8歳の時に知り合ったのが俳優のマット・デイモン。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)では彼との共同脚本によりアカデミー賞さらにゴールデン・グローブ賞の脚本賞を受賞した。幼い頃から子役として活躍し、テレビドラマなどに出演。『チェイシング・エイミー』(97)で俳優として注目され、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)でブレイク。その後は『アルマゲドン』(98)、『レインディア・ゲーム』(00)『パール・ハーバー』(01)など大作への出演が続く。07年には「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(未公開)で脚本そして監督デビューを果たす。『ザ・タウン』(10)では監督・脚本・主演を兼務し、各方面からその才能を高く評価された。自ら製作し、監督・主演を果たした『アルゴ』(12)がアカデミー賞作品賞をはじめ3部門に輝き、多くの映画人を圧倒させ、監督・俳優としての不動の地位を確立。次回監督作品は米作家デニス・ルヘイン原作「夜に生きる」の映画化。プロデューサー、脚本、主演も兼ねる。

オルガ・キュリレンコ/マリーナ
OLGA KURYLENKO

1979年、ウクライナ生まれ。16歳でパリに渡り、モデルとしてキャリアをスタートさせ、トップモデルの地位を築く。『薬指の標本』(04)で映画デビュー。以降は『パリ、ジュテーム』(06)ではイライジャ・ウッドと、『マックス・ペイン』(08)ではマーク・ウォールバーグと共演し活躍の場を広げる。『007 慰めの報酬』(08)ではボンドガールに抜擢され、ほとんどスタントなしのカミーユ役を熱演。さらに5月31日公開のトム・クルーズ主演『オブリビオン』に出演、先日プロモーションのため来日した。現在ハリウッドで最も注目されている女優の一人である。その他の出演作に、『故郷よ』(11)、『陰謀のスプレマシー』(12)等がある。マイアミを舞台にしたTVシリーズ「Magic City」では、ヴェラ・エヴァンス役で出演。

レイチェル・マクアダムス/ジェーン
RACHEL MCADAMS

1978年、カナダ、オンタリオ州生まれ。子どもの頃に地元の劇団で初めて演技を経験し、ティーンエージャーの頃には若手劇団の舞台演出も手がけた。トロントのヨーク大学で演劇を学ぶ。『ホット・チック』(02)に出演し注目され、リンジー・ローハンと共演した『ミーン・ガールズ』(04)でブレイク。『きみに読む物語』(04)ではライアン・ゴスリングの相手役を演じ、女優としての幅を魅せる。その後、ハリウッドで活躍する最もホットな女優のひとりとして注目され、『きみがぼくを見つけた日』(09)『消されたヘッドライン』(09)『シャーロック・ホームズ』(09)『恋とニュースのつくり方』(10)『ミッドナイト・イン・パリ』(11)『君への誓い』(12)等、大物監督作品からコメディまで多彩な作品に出演。今後、『ラブ・アクチュアリー』(03)のリチャード・カーティス監督最新作「About Time」の公開が控えている。さらに、『ラスト・ターゲット』(10)のアントン・コルベイン監督作品「A Most Wanted Man」では、フィリップ・シーモア・ホフマンと共演している。

ハビエル・バルデム/クインターナ牧師
JAVIER BARDEM

1969年、スペイン、カナリア諸島のラスパルマス生まれ、マドリッドで育つ。バルデムの家族は代々映画関係の仕事に携わっており、6歳から俳優業に関わる。母と祖父はかつて俳優だったこともあり、叔父は監督、兄と姉のふたりもまた俳優である。20歳で出演した『ルルの時代』(90)で映画デビュー。そしてビガス・ルナ監督『ハモンハモン』(92)で知られるようなる。その後母国スペインのみならず国際的にも一流の俳優として活躍。『夜になるまえに』(00)では、英語作品に初主演し、スペイン人俳優として初めてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。そして『ノーカントリー』(07)では冷酷で邪悪なヒットマンを見事に演じ、スペイン人俳優として初めてゴールデン・グローブ賞助演男優賞、アカデミー賞助演男優賞を獲得し、俳優としての地位を確立した。最近では、『007スカイフォール』(12)の悪役シルヴァ役を独特の存在感で怪演。その他の出演作は、『海を飛ぶ夢』(04)、『宮廷画家ゴヤは見た』(06 )、『コレラの時代の愛』(07)、『それでも恋するバルセロナ』(08)、『BIUTIFULビューティフル』(10)等がある。

STAFF PROFILES

プロデユーサー:サラ・グリーン
SARAH GREEN

『ニュー・ワールド』(05)でプロデュースを手掛けて以降、テレンス・マリック作品にはプロデューサーとして関与し、『ツリー・オブ・ライフ』(11)、本作でも製作を務めた。90年代初めからアメリカのインディペンデント映画を牽引し、ジョン・セイルズが監督した『希望の街』(91)、『パッション・フィッシュ』(92)、『フィオナの海』(94)や「5シリングの真実」(99/監督:デヴィッド・マメット)、『ガールファイト』(00/監督:カリン・クサマ)、『フリーダ』(02/監督:ジュリー・テイモア)、『ダンシング・ハバナ』(04/監督:ガイ・ファーランド)をプロデュースしている。近年のプロデュース作品はジェフ・ニコルズ監督による『テイク・シェルター』(11)、『Mud』(12)など。現在ポストプロダクション中の「Lawless(仮)」(13)、「Knight of Cups(仮)」(13)、「Voyage of Time(仮)」(14)といったマリック作品でも彼女がプロデューサーを務めている。

プロデューサー:ニコラス・ゴンダ
NICOLAS GONDA

『ニュー・ワールド』(05)でポストプロダクション・アシスタントとしてテレンス・マリック作品に初めて参加。『ツリー・オブ・ライフ』(11)では共同プロデューサーを務めた。本作でプロデューサーを務めて以降、「Lawless(仮)」(13)、「Knight of Cups(仮)」(13)、「Voyage of Time(仮)」(14)といった現在ポストプロダクション中のすべてのマリック作品でプロデュースを担当している。他のプロデュース作品は、本作で編集を担当しているA.J.エドワーズの初監督作「The Green Blade Rises」(13)、『ツリー・オブ・ライフ』や本作にセカンドユニット・カメラマンとして参加したポール・アトキンスの監督作「The Devil’s Teeth」(未定)など。『ボーン・アイデンティティー』(02/監督:ダグ・リーマン)や『ニュー・ワールド』で編集を担当したサー・クラインの初監督作「Things People Do」(14)では製作総指揮を務めている。

撮影:エマニュエル・ルベツキ,ASC,A.M.C
EMMANUEL LUBEZKI,ASC,A.M.C

1964年生まれ、メキシコ・メキシコシティ出身。これまでアカデミー撮影賞に5度ノミネートされた現代最高峰のカメラマンのひとり。メキシコの映画界でキャリアをスタートさせ、『赤い薔薇ソースの伝説』(92/監督:アルフォンソ・アラウ)が脚光を浴びた後、『リアリティ・バイツ』(94/監督:ベン・スティラー)でハリウッドに進出。『スリーピー・ホロウ』(99/監督:ティム・バートン)、『ALI アリ』(01/監督:マイケル・マン)、『バーン・アフター・リーディング』(08/監督:ジョエル&イーサン・コーエン)などの作品で撮影を手掛ける。また、メキシコを代表する巨匠、アルフォンソ・キュアロンとは長くタッグを組み、『リトル・プリンセス』(95)、『大いなる遺産』(98)、『天国の口、終りの楽園。』(01)、『トゥモロー・ワールド』(06)を撮影した。テレンス・マリック監督作に携わるのは『ニュー・ワールド』(05)、『ツリー・オブ・ライフ』(11)に続き3度目。「Lawless(仮)」(13)、「Knight of Cups(仮)」(13)でも撮影を担当している。

プロダクションデザイン:ジャック・フィスク
JACK FISK

1945年生まれ、アメリカ・イリノイ州出身。ジョナサン・デミがプロデュースした『エンジェルズ/地獄の暴走』(71/監督:ジョー・ヴィオラ)でアートディレクターを務めたことをきっかけに、テレンス・マリックの初監督作『地獄の逃避行』(73)でプロダクションデザインを担当。以降、すべてのマリック監督作品でプロダクションデザインを手掛けている。他の作品は『ファントム・オブ・パラダイス』(74)、『キャリー』(76/監督:ブライアン・デ・パルマ)、『ストレイト・ストーリー』(99)、『マルホランド・ドライブ』(01/監督:デヴィッド・リンチ)、『インベージョン』(07/監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル)、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)、『ザ・マスター』(12/監督:ポール・トーマス・アンダーソン)など。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』ではアカデミー美術賞にノミネートされた。また、「Raggedy Man」(81)、『すみれは、ブルー』(86)、『家族狂想曲』(90)などの作品では自ら監督を務めている。

衣装デザイン:ジャクリーン・ウェスト
JACQUELINE WEST

これまで『クイルズ』(00/監督:フィリップ・カウフマン)、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08/監督:デヴィッド・フィンチャー)で2度のアカデミー賞ノミネートを誇る衣装デザイナー。もともと医者を目指していたが、カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、母親の跡を継ぎ服飾デザイナーに。『ヘンリー&ジューン/私が愛した男と女』(90/監督:フィリップ・カウフマン)にクリエイティヴ・コンサルタントとして関わったことから映画界に進出した。『ニュー・ワールド』(05)以降のテレンス・マリック監督作で衣裳デザインを担当し、「Knight of Cups(仮)」(13)にも参加。他の作品に『ライジング・サン』(93/監督:フィリップ・カウフマン)、『インベージョン』(07/監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル)、『消されたヘッドライン』(09/監督:ケヴィン・マクドナルド)、『ソーシャル・ネットワーク』(10/監督:デヴィッド・フィンチャー)、『アルゴ』(12/監督:ベン・アフレック)などがある。

音楽:ハナン・タウンゼント
HANAN TOWNSHEND

ニュージーランド出身。ヴィクトリア大学ウェリントン校やアメリカ・テキサス大学で作曲、オーディオ・エンジニアリング、そしてサウンド・プロダクションについて学ぶ。ニュージーランドで製作された数々のショートムービーに音楽を提供した後、「The Holy Roller」(10/監督:パトリック・ギリス)で初めて長編映画の音楽を担当。テレンス・マリック監督作は『ツリー・オブ・ライフ』(11)のサウンドトラックに作曲家、プレイヤーの双方で参加し、その後本作に至っている。他の作品に「Loves Her Gun」(13/監督:ジェフ・マースレット)がある。

PRODUCTION NOTES

対照的なロケーション

この作品の主な舞台となるフランス・ノルマンディー海岸近くの島、モンサンミシェルとアメリカ・オクラホマ州の小さな町、バートルズビルは観客に対照的と言っていい感触を与えるかもしれない。フランスで“メルヴェイユ(Merveille)”、つまり“驚異=WONDER”と呼ばれ、多くの観光客や巡礼者が集うゴシック様式の修道院を持つこの地は、6世紀以来、周囲から隔絶して存在してきた。荒々しくも美しい入江に囲まれ、まるで天と地、幻想と現実の狭間にあるようなそのロケーションは、ニールとマリーナの愛の物語が生まれる場所にふさわしく思える。一方、“近代建築の巨匠”フランク・ロイド・ライトによって1956年に建築されたプライス・タワーがそびえ、いまも20世紀初頭の建物が多く残る荒涼としたバートルズビルのイメージは、愛の移ろいを探究するこの映画のテーマと見事に一致した。黄色や褐色が織り成す自然の色彩と広く澄みきった空は、そこに生きる人々をちっぽけに映し出し、その孤独や虚しさを浮き彫りにする。

マリックが役者に課した宿題

テレンス・マリック監督の撮影スタイルは唯一無二で独創的だ。彼は俳優たちに台本を与えず、役柄の設定やセリフに関するメモだけを渡して、基本的には口頭でのやりとりを通じてシーンを作り上げていく。そして、俳優たちと長時間にわたり話をし、役柄を演じるのでなく、役柄の内部に入り込みとどまることを彼らに求めた。演じる役の理解を深めるため、マリックは準備段階の役者たちにさまざまな映画、音楽、文学、美術を吸収させ、ものの見方を育んだと言う。例えば、ベン・アフレックはドストエフスキーやトルストイ、フィッツジェラルドの著作を読み、ゲイリー・クーパーが主演する映画を数本観て、“静かなる中心人物”であるニールの思慮深さを磨き上げた。また、オルガ・キュリレンコは具体的に『カラマーゾフの兄弟』や『白痴』、『アンナ・カレーニナ』といったタイトルを挙げ、それらの本を読みながら、役作りのために教会へ行くように指示されたことを告白する。

テレンス・マリックの演出術

セリフらしいセリフもなく、シーンに応じて俳優たちから即興的な芝居を引き出し、ある“出来事”をそこに現出させる。プロデューサーのサラ・グリーンとニコラス・ゴンダが「意図と偶然、衝動と発見の美しい関係」と称するのがマリックならではの演出術だ。それは撮影後のポストプロダクション作業においても一貫していた。彼は編集を含むポストプロダクションを通じて、さまざまな衝動と発見を積み重ね、映画の核となるテーマを絞り込んでいく。その過程で、これまでのマリック作品でも、撮影に参加しながら出演シーンが大幅に削られたり、カットされたりした俳優も珍しくない。2ヶ月の撮影期間に対し、1年以上の期間が割かれた本作のポストプロダクションにおいて、その憂き目を見たのは『ナイロビの蜂』(05/監督:フェルナンド・メイレレス)でアカデミー助演女優賞を獲得しているレイチェル・ワイズだった。ニールの親友、ダイナを演じた彼女だったが、結局のところ本編ではすべての出演シーンがカットされている。

ベン・アフレックがマリックに受けた影響

主演のベン・アフレックとマリックの関係は古く、彼がマット・デイモンと共にアカデミー脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97/監督:ガス・ヴァン・サント)の準備期間にさかのぼる。この時、マリックとのコンタクトに成功し、脚本への助言を得たアフレックは、マリックを心から尊敬し、その後もしばしば監督作に対するアドバイスを求めてきた。彼はマリックからキャストとして声を掛けられたことが、何よりのよろこびだったと語る。当時、アフレックは監督作の仕事を終え、家族と時間を過ごすために休暇を取る予定だったが、オファーを受けて本作への出演を快諾した。『アルゴ』(12)でアカデミー作品賞を受賞し、監督の仕事で多忙な彼にとって、単に役者として関わるような作品は大幅に少なくなってきている。しかし、アフレックは監督の視点からも、マリックの映画作りに対するアプローチを目にしたいと考えていた。実際、撮影期間を通じて、彼は他の監督との仕事から学んだすべてのものより、ずっと多くのものをマリックから学ぶことができた。それは自然光の使い方などといった具体的なテクニックから、先入観や型にはまらず見識に挑戦し続ける監督としての姿勢まで、多岐にわたったと言う。

ハビエル・バルデムとマリックの邂逅

『ノーカントリー』(07/監督:ジョエル&イーサン・コーエン)でアカデミー助演男優賞に輝くハビエル・バルデムは、通常の作品では事前に十分な準備をし、役柄をリサーチしてから撮影に臨むやり方を行ってきた。しかし、本作では自らの方法論を捨て、マリック流のまったくスタイルの異なる映画作りに取り組まなければならなかった。マリックとのファーストコンタクトは、彼にとって忘れられない瞬間となった。マリックから初めて電話が掛かってきた時、彼は「どんなストーリーか?」「演じるキャラクターはどんな人物か?」とマリックを質問攻めにしたと言う。しかし、監督から得られる情報はほんのわずかだった。それでも彼が出演を即決したのは、役者なら誰もが憧れるマリック作品への出演機会を、決して逃したくなかったからだ。バルデムは自らのスタイルを押し通すことより、マリック作品の一部となって、そこに溶け込むことを望んだのである

高名な写真家、ユージン・リチャーズの貢献

バルデムがクインターナ神父を演じるにあたり、マリックはある高名な写真家を彼に付き添わせ、その役作りをサポートさせた。それがユージン・リチャーズだ。キャパ、カルティエ=ブレッソンらによって結成された世界最高峰の写真家集団、マグナム・フォトに在籍し、アメリカの貧困をジャーナリスティックに切り取ってきた彼は、バルデムと共に実際の神父や囚人、バートルズビルに暮らす困難を抱えた人々のもとを周り、彼らの声に耳を澄ませた。中には死に直面した女性もいたが、彼女はバルデムやリチャーズが同席する中、息子の前で自らの歴史を語る機会を得ることができた。そのようにリチャーズとコンビを組んで、他人や世界を発見するというプロセスは、バルデムに目の覚めるような新鮮な体験を提供した。

オルガ・キュリレンコがアフレックに受けた仕打ち

マリーナ役にふさわしい女優を探してスタッフが欧米を駆け回った結果、この魅力的な役柄を手にしたのはウクライナ出身のオルガ・キュリレンコだった。他の俳優と同様、キュリレンコにとってもマリック独自の撮影スタイルはやりがいのあるものだったが、ニールとマリーナの関係が崩壊していく後半のシーンは、彼女に大きな苦しみをもたらしたと言う。撮影期間中、マリックは役者たちに演じるキャラクターそのものでいることを求めた。そのため、ニールがマリーナと距離を置くようになる終盤は、実際にアフレックも彼女に対して冷淡でいなければならなかった。一方、キュリレンコはマリーナとして、撮影の間ずっとニールの愛を探し続ける必要があった。撮影を終えた後、彼女はしばらくの間マリーナを振り払うことができなかったと語るが、それは彼女が役柄にどっぷり浸るクリエイティブな時間を確かに経験した証だ。

レイチェル・マクアダムスがとらえたマリック像

ジェーンを演じたレイチェル・マクアダムスは、マリックの撮影現場を俳優に完全な自由が与えられた、重圧のいっさいない場所だったと振り返る。マリックが俳優の能力を信じ、キャラクターになりきる彼らの積極性に依拠していたからだが、マクアダムスはこうも考えていた。そもそもマリックは、役柄と経験や気性の一致する俳優を探していたのではないかと。そのようなキャスティングを行うことで、俳優の個性からすべてをスタートさせることができるからだ。マリックが関心を払うのは、俳優が個人的に何を準備し、何を差し出すかということでしかない。そのようにすべてを本気でさらけ出さなければならない現場は、俳優にとって脅威でありリスキーでもあったが、見方を変えればやはり大きなやりがいを感じる現場でもあった。自らを安全圏から引っ張り出してくれたマリックは、心優しい愛すべき人物だったとマクアダムスは感じている。

ABOUT テレンス・マリック監督

監督・脚本:テレンス・マリック
TERRENCE MALICK

1943年生まれ、アメリカ・テキサス州出身。ハーバード大学、オックスフォード大学で哲学を学び、卒業後はマサチューセッツ工科大学で教鞭を取りながら、フリーランスのジャーナリストとして『ニューズウィーク』や『ザ・ニューヨーカー』などの雑誌に記事を寄稿。その後、アメリカ映画協会(AFI)で映画の技術を習得し、脚本家として『ポケットマネー』(72/監督:スチュアート・ローゼンバーグ)に参加して、映画界でのキャリアをスタートさせた。ネブラスカで実際に起きた連続殺人事件を題材に、自ら製作・脚本を兼務した『地獄の逃避行』(73)で監督デビュー。テキサスの農場を舞台に若者たちの葛藤を描いた監督2作目『天国の日々』(78)でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、世界中の賞賛を受け、70年代以降を代表する映画監督の地位を嘱望された。しかし、この作品の後は映画界から距離を置き、20年間にわたり沈黙。'98年、ガダルカナル島での激戦を描く『シン・レッド・ライン』でベルリン国際映画祭金熊賞を獲得し、劇的な復活を遂げる。『ニュー・ワールド』(05)を経た前作『ツリー・オブ・ライフ』(11)では壮大な映像美で観る者を圧倒し、見事カンヌ国際映画祭パルムドールの栄誉に輝いた。

“生きる伝説”テレンス・マリックとは?

ブラッド・ピット、ベン・アフレックが
尊敬してやまない監督

1973年の監督デビュー後、40年にわたるキャリアを誇りながら、監督作はいまだ6本という寡作な映画作家、テレンス・マリック。しかし、その作品数に反して、彼が世界の映画人に与えた影響は絶大と言える。クリストファー・ノーランやデヴィッド・フィンチャーを筆頭に、彼への敬意とその作品から受けた影響を口にする監督は後を絶たず、また彼のファンを公言する俳優も数え切れない。ブラッド・ピットはマリックと仕事がしたい一心で『ツリー・オブ・ライフ』(11)の製作を手掛け、その後、出演予定の俳優が降板したため自ら主演も兼ねることになった。本作に主演するベン・アフレックも、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97/監督:ガス・ヴァン・サント)のシナリオ執筆時にマット・デイモンとふたりでマリックに会い、彼の助言に従ってラストシーンを書き換えた経験があるなど、マリックに対する信頼と尊敬を隠さない。

マリック監督にしかできない撮影方法

マリック作品が周囲を魅了してきた大きな理由のひとつが、リアリスティックでありながら詩情豊かなその映像美だ。アカデミー撮影賞を受賞した『天国の日々』(78)で、彼はテキサスの農場が四季折々に見せるさまざまな彩りを、アンドリュー・ワイエスやエドワード・ホッパーの絵画のように写実的に描き出している。だが、彼の完璧主義は撮影におけるいっさいの妥協も許さなかった。照明機材の使用を嫌う彼は、撮影監督のネストール・アルメンドロスと共に自然光での撮影を一貫させ、ほぼ全シーンの撮影を日没後に数十分だけ訪れる薄明かりの美しい時間帯、“マジック・アワー”の間に行っている。撮影に費やすコストを考えれば、もちろんこれは異例なことだ。また、自然光への執着はその後も変わらず、『ツリー・オブ・ライフ』では照明以外の要素で画面の明度をコントロールせざるを得ず、撮影監督のエマニュエル・ルベツキは俳優が着る衣装の色を調整したり、家屋の壁の色を塗り替えたりしなければならなかった。『ツリー・オブ・ライフ』の前半部には壮大な宇宙の映像も登場するが、CGやVFXといったデジタル技術の使用をも拒むマリックは、薬品や塗料などを用いた特殊撮影によって、できる限り実写で宇宙の映像を作り上げている。

表舞台には一切でない謎めいた人物

マリックが“伝説”と称されるのは、映画制作に対するそのような人並み外れた執念だけが理由ではない。『天国の日々』が絶賛されながら、『シン・レッド・ライン』までの20年にわたり映画界から忽然と姿を消し、しかもその間はフランスで教鞭を取っていたなど、その言動が神秘のベールに包まれていることも理由のひとつだ。公の場に出ることを極端に嫌う彼は、各メディアの取材に応じることもなく、それどころか監督作の契約書において肖像写真のプロモーション目的での使用すら禁じていると噂される。さらに、自らの作品がノミネートされたアカデミー賞や国際映画祭にも現れず、『ツリー・オブ・ライフ』が最高賞であるパルムドールを獲得した2011年のカンヌ国際映画祭授賞式でも、その姿を見せることはなかった。その時、プロデューサーのデデ・ガードナーはこうコメントしている。
「作品がすべてを物語っているんです」
寡作なマリックにしては珍しいことだが、彼はいま3本の作品のポストプロダクション作業を同時に行っている。ライアン・ゴズリング、クリスチャン・ベール、ナタリー・ポートマン、ルーニー・マーラらが出演する「Lawless(仮)」(13)、同じくベールとポートマン、ケイト・ブランシェットらが出演する「Knight of Cups(仮)」(13)、そしてブラッド・ピット、エマ・ワトソンがナレーションを務めるドキュメンタリー「Voyage of Time(仮)」(14)だ。いずれも今年から来年にかけて公開予定のこれらの作品で、彼はいったい何を物語るのか?

※海外のソースを参照して構成しています。